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未接道の土地は「再建築不可」なのか──私道10筆と横浜市43条許可の実例

事務所でパソコンに表示した測量図を指しながらスタッフと打ち合わせをする土地家屋調査士

ご依頼は、リフォームのための敷地測量でした。ところが公図を開いたところ、この土地は建築基準法上の道路に接しておらず、将来の建て替えに支障が出る状態でした。測量図をお渡しすれば、契約はそれで完結します。しかし、それではこの土地がいずれ行き詰まることを分かっていながら、黙っていることになります。そこで、この土地の価値を将来にわたって保つには何が必要かという視点で問題点を整理し、打てる手とその順番を示す資料をお渡ししました。ご依頼の範囲を超える仕事でしたが、土地の課題は、気づいた時点で手を打つほど、残る選択肢が多くなります。その経過をご紹介します。

依頼は「リフォームのための敷地測量」でした

横浜市内の住宅地にお住まいの方から、敷地測量のご依頼をいただきました。ご自宅のリフォームを予定されていて、そのために敷地の形状と面積を確定しておきたい、という内容です。

土地家屋調査士の仕事としては、ごく標準的なご依頼です。現況を測り、隣地との境界を確認し、境界標を設置して図面にまとめる。それで完結する業務です。

このリフォームは、建築確認を必要としない工事でした。ですから、これから書く「接道」や「許可」の話は、このリフォーム自体には何の関係もありません。工事は問題なく進められる状況でした。

それでも私は、測量の作業とは別に、一冊の説明資料をお渡しすることになりました。

公図を開いて、手が止まりました

測量に先立って、法務局で公図と登記情報を取得します。これは境界を確認するための基礎作業で、必ず行うものです。

公図を開いて、まず目に入ったのは、対象の宅地が公道に直接接していないことでした。

ご自宅の前面には幅約4mの通路があり、そこを通って公道に出る形になっています。一見すると普通の道路のように見えます。しかしその通路は、市が管理する道路ではありませんでした。

沿道の各戸が、自宅の前の部分を少しずつ所有している私道だったのです。

しかも一本の土地ではなく、細長い筆が10筆に分かれて連なっていました。所有者は10名。うち一筆は複数名の共有です。ご依頼者ご自身も、この私道のうち2筆を所有されていました。

そしてこの私道は、西側で公道に接続し、東端が行き止まりになっています。ご依頼者の敷地は、その終端に接する位置にありました。

つまり、この土地は建築基準法上の道路に接していない——いわゆる未接道地です。将来、建物を建て替えようとしたときに、そのままでは行き詰まる状況でした。

ご依頼者は、このことをご存じありませんでした。

誰も、どこが道路か分かっていなかった

もう一つ分かったことがあります。

公図の上では、この私道部分の筆と、各戸の宅地の筆が入り組んでいて、どこまでが宅地で、どこからが通路なのかが極めて分かりにくい状態でした。

これは図面の上だけの話ではありません。現地の状況をうかがっても、前面のどの部分がどなたの所有で、どの筆が通路として使われてきたのかを正確に把握されている方は、見当たりませんでした。長い年月のあいだに「ここは通り道」という共通了解だけが残り、権利の形と現地の使われ方が対応しなくなっていたのです。

測量のご依頼は、あくまでご依頼者の敷地についてのものです。本来であれば、隣接する筆の所有者を確認して境界を立会いで確認すれば、それで足ります。

しかし、それでは前面の通路の全体像が見えません。私は、私道を構成する筆を一つずつ登記情報と突き合わせ、所有者を洗い出し、現況の実測値と重ねて図面化しました。その結果、混沌としていた前面通路の権利関係が、はじめて一枚の図として見える形になりました。

この工程は、敷地の測量図を作るだけであれば必要のない作業です。ただ、公図を見た時点で「これは後で大きな問題になる」と分かってしまったので、そこまでやりました。

そして、ここから先が本題です。全体像が見えたことで、この土地は本当に建て替えられないのかを検討できる状態になったからです。

未接道地に開かれた二つの道

建築基準法は、建物の敷地は幅4m以上の道路に2m以上接していなければならない、と定めています(同法43条1項)。前面が法律上の「道路」でなければ、この原則にあてはまりません。

ただし救済の規定があり、大きく二つの道があります。

認定(43条2項1号)

一定の基準に適合する「農道等」に接している場合に、建築主事の認定を受ける方法です。

この方法には、実務上きわめて重い要件があります。省令により、その道の敷地となる土地のすべてについて、所有者だけでなく、抵当権者など権利を有する者全員の承諾書を添えることが法定の必須要件とされています。

私道が10筆に分かれ、それぞれに住宅ローンの抵当権が設定されていれば、金融機関を含む全員から承諾書をいただかなければなりません。しかも代替手段がありません。本件では、現実的な選択肢とは考えられませんでした。

許可(43条2項2号)

こちらは、周囲に広い空地があるなど、交通上・安全上・防火上・衛生上支障がないと特定行政庁が認めた場合に、建築審査会の同意を得て許可を受ける方法です。通称「但し書き道路の許可」と呼ばれています。

こちらも原則として、私道所有者から「将来にわたって道路として維持する」旨の誓約書(実印を押し、印鑑登録証明書を添えるもの)の提出を求められます。ただし決定的に違う点が二つあります。

  • 対象は「土地所有者等」であり、抵当権者は含まれない
  • 一定の場合に、誓約書に代わる方法が認められている

どちらの制度を選ぶかで、必要な同意の重さがまるで違ってきます。本件では、許可の方向で検討を進めました。

横浜市の許可基準に当てはめて分かったこと

横浜市には、許可の運用について「建築審査会包括同意基準」が定められています。本件で検討したのは、既存の建物がある敷地の建替えに関する基準です。

主な要件に現況を当てはめた結果は、次のとおりでした。

確認項目 現況 判定
空地の幅員約4m(基準は1.8m以上)充足
公道までの距離約25m(基準は60m以内)充足
中心線からの後退幅員が確保済みのため後退はごく僅か充足
舗装・雨水排水施設コンクリート舗装・側溝あり充足
境界の明示測量・境界標設置済み充足
基準時(平成11年5月1日)の建物現存建物あり充足
防火構造の義務幅員2.7m以上のため不要の見込み有利

数値の面では、許可取得の見込みは高いと判断しました。

問題は、書面の方です。

私道の所有者は10名。全員から実印と印鑑登録証明書をいただくのは、決して簡単ではありません。ご高齢の方もおられます。

ここで、包括同意基準の例外的な取扱いが効いてきました。

本件のように、各戸が自宅前を少しずつ持ち合っている形の私道では、その通路が塞がれると、所有者ご自身も建替えができなくなります。つまり道路として維持することについて、所有者全員の利害が一致しています。この場合、道路として維持される担保性が高いと評価され、実印による誓約書の代わりに、各所有者にご説明し、ご理解をいただいた経過を報告する書面で足りるとされる運用があります(2階建ての一戸建てへの建替えである場合)。

ただし、この考え方があてはまらない方がおられました。

すでに公道に接していて、この私道がなくても建替えができる立場の方です。この方々にとっては、通路が塞がれても自身の建替えには影響しません。したがって「利害が一致しているから維持されるはずだ」という前提が成り立たず、制度上、誓約書の提出を求められる扱いになります。

本件で該当したのは、10名のうち2名でした。公道から私道に入ってすぐの位置にあたる土地の所有者です。

私道が10筆に分かれた状態の模式図公道から入った行き止まりの私道が10筆に分かれ、沿道の各戸が自宅前を所有していることを示した図。公道側の2筆のみ誓約書が必要になる見込みであることを色で区別している。公道(市が管理する道路)①を所有公道にも接する②を所有公道にも接する③を所有④を所有⑤を所有⑥を所有⑦を所有⑧を所有私道(10筆に分割)行き止まりご依頼者のご自宅私道のうち⑨⑩の2筆を所有誓約書(実印)の提出を求められる見込み ―― 2筆ご説明の経過を報告する書面で足りる見込み ―― 8筆うち2筆はご依頼者ご自身のご所有

図:私道の成り立ちと、誓約書が必要になる位置(模式図)。私道の幅は約4m、公道までは約25mです。実際の配置・筆の形状・戸数は、ご依頼者が特定されないよう変えてあります。

必要な書面の範囲は、基準に一つずつ当てはめてみるまで分かりません。調べたことで、この土地の手続きの見通しが立つ状態になりました。

同時に、この2名の方の土地が、公道から通路に入る入口にあたることも分かりました。ここでのご理解が得られなければ、他の8名の方がご理解くださっても、公道までの通り道が入口で確保できません。近隣の方々との関係を平時から大切にしておくことが、なぜ効いてくるのか。その理由がここにあります。

なお、この代替の取扱いを認めるかどうかは横浜市の判断であり、事前相談で確認すべき事項です。私どもとしては「見込みが高い」と申し上げられる段階までしか進めていません。

許可が下りても、まだ終わらない

もう一つ、混同されやすい点をご説明しました。

建築の許可が下りても、それは行政が「建ててよい」と判断したにすぎません。実際に工事を行うには、

  • 上下水道やガスを引き込むために、私道を掘る
  • 工事車両が私道を通る

といった場面が生じます。私道は他の方の所有地ですから、この掘削と通行について、所有者の承諾書をいただくのが実務の慣行です。これは法律上の義務ではなく、あくまで所有者のご協力によるものです。

そして、買主が住宅ローンを利用する場合、金融機関からこの承諾書の提出を求められることがよくあります。承諾が得られないと融資がつかず、売買そのものが成立しないこともあります。

ここで注意が必要なのは、この承諾は先に用意しておくことができないという点です。承諾書は「誰が工事をするか」に対していただくものなので、土地の所有者が変われば、新しい所有者の名義で改めていただき直すことになります。

ちなみにご依頼者も私道の2筆を所有されていますから、他のお宅が建替えをされるときには、承諾する側の立場になります。お互いに承諾し合える関係が保たれていることが、いちばん確実な備えです。

手続きは、時間が経つほど難しくなる

本件でもっとも強くお伝えしたのは、この点です。

「10名のうち2名だけ」という見込みは、私道の所有者10名全員に連絡がつく現在の状況を前提にしています。

年月が経つと、相続によって所有者の人数は増えていきます。一筆につき数名ずつ増えれば、10筆では相当な人数になります。連絡先の分からない方が出てくることもあります。そうなれば、同じ手続きに要する手間は大きく増えます。

一方で、横浜市に一度この誓約書が提出されると、その私道は「将来にわたって道路として維持する書面が出ている土地」として市の記録に残ります。その後の建替えの際に、改めて所有者の方々から書面をいただき直す必要はない取扱いになると考えられます。

つまり、手続きを進めやすい時期に一度許可を受けておくと、将来の建替えや売却の見通しが立てやすくなるという考え方が成り立ちます。

もっとも、建替えの予定がない段階で許可だけを先に受ける方法には費用がかかります。必要性とあわせてご判断いただく事柄で、急いでお決めになることではありません。なお、一度提出された書面がその後の申請にどこまで引き継がれるかは市の運用によりますので、実際に進める前に私どもが市に確認いたします。

相続の入口でしか打てない手がある

本件では、途中で名義人の方がお亡くなりになり、相続が発生しました。

そこで一つ、お伝えしたことがあります。ご自宅の敷地、私道部分の2筆、そして建物を、いずれも同一の名義にまとめておくことの意味です。

将来、許可を申請するときには、敷地と建物の所有者が書面に署名し、実印を押すことになります。名義が一つにまとまっていれば、お一人で手続きを進められます。共有にした場合は、そのたびに共有者全員分の書面が必要になり、さらにそれぞれの相続でお名前が増えていきます。

とくに私道部分の細長い土地は、相続手続きで見落とされやすく、後年になって「この土地だけ名義が変わっていない」という例が少なくありません。

これは、遺産分割の段階でしか打てない手です。手続きが終わってから気づいても、やり直すには別の手続きが必要になります。相続登記および遺産分割そのものについては司法書士の領域ですので、連携してお進めいただく形になります。

売却の場面で何が変わるか

ここからは、不動産の実務に携わる方にも関わるお話です。

未接道の土地が市場で安く評価される最大の原因は、情報の非対称にあると考えています。

登記簿と公図を見て前面が私道だと分かった時点で、多くの場合、その私道が建築基準法上の道路に指定されているかを確かめる前に、「再建築不可」を前提に価格が考えられます。許可取得の可能性を調べるには、行政の基準を読み、私道の筆を追い、実測して当てはめる作業が必要です。売買の当事者がそこまで踏み込むのは、現実には難しいでしょう。

逆に、次のような資料を揃えて説明できれば、出発点が変わります。

  • 現況の測量図
  • 私道の幅員と延長を実測した図面
  • 指定道路図・道路台帳の調査結果
  • 許可基準への適合状況を整理した書面
  • 行政への事前相談の記録
  • 基準時より前から建物があったことを示す資料

なかでも、行政への事前相談の記録があるかどうかがもっとも効きます。「再建築不可」という一言で評価が決まるのか、「許可取得の見込みが高い物件」として検討されるのか。その分かれ目になります。

測量の依頼を、将来の設計に変える

このご依頼は、リフォームのための敷地測量から始まりました。測量図をお渡しすれば、契約は完結していました。

しかし公図を開いた時点で、この土地が抱える将来の問題が見えてしまいました。そこで、

  1. 私道を構成する筆と所有者を一つずつ洗い出して、混沌としていた権利関係を図面化した
  2. 現況の実測値を横浜市の許可基準に当てはめ、適合状況を整理した
  3. 認定と許可のどちらを選ぶべきかを比較した
  4. 実印が必要な方が2名に絞られる見込みを見出した
  5. 相続手続きの段階で名義を集約しておくべきことをお伝えした
  6. 通行・掘削の承諾は事前に用意できないことをご説明した

という順序で整理し、資料としてお渡ししました。

登記・測量から得られる情報と、行政の許可基準を突き合わせて、依頼者が取るべき手順を設計する。当事務所が力を入れているのは、この部分です。

土地の情報を「測って図面にする」だけでなく、その土地が将来どこで行き詰まるのかを見通して、打てる手の順番を示す。それが、測量業務と並行してお引き受けしているコンサルティングの中身です。

当事務所がお手伝いできること

  • 行政の許可基準に照らした適合状況の整理
  • 行政への事前相談への同行と、結果のご報告
  • 近隣の方へのご説明に用いる資料の作成
  • 許可申請に必要な図面・書類の作成と申請手続き
  • 不動産業者、買主側の設計者、金融機関に対する技術的なご説明

業務の範囲について

当事務所は土地家屋調査士であり、担当するのは土地と私道に関する技術的な調査とご説明です。売買の媒介や価格に関することは行いません。

また、次の領域はそれぞれの専門家が担当します。当事務所では、提携する司法書士・弁護士・建築士・税理士等とチームを組み、ワンストップでご支援する体制をとっています。

内容 担当
建築の設計・確認申請建築士
相続登記・遺産分割司法書士
権利関係の争いに関すること弁護士
売買の媒介・価格宅地建物取引業者

費用は、実際に動いた分を頂戴します。ご依頼をいただく段階で、作業の範囲と費用をあらかじめ書面でお示しいたします。

おわりに

「未接道だから再建築不可」と言われた土地が、必ずそうだとは限りません。行政の許可基準に一つずつ当てはめる作業をすれば、道が開くことがあります。

そして本件でいえば、その作業は手続きを進めやすい今のうちにしておくほど有利になります。私道の所有者が把握できているあいだにしか打てない手が、いくつかあるからです。

前面の道について、気になることがありませんか

土地の課題を整理し、打てる手の順番を設計するご相談をお受けしています。

不動産コンサルティングについて

あわせてお読みください:『再建築不可』と言われた旗竿地を建てられる土地に

ご注意

  • 本記事は、横浜市の運用基準(当事務所が確認した令和4年8月時点のもの)に基づく記述を含みます。基準の内容は自治体によって異なり、また改定されることがあります。実際の検討にあたっては、必ず所管の特定行政庁で最新の基準をご確認ください。
  • 許可の可否を最終的に判断するのは特定行政庁であり、建築審査会等の同意を要します。本記事の記述は許可を保証するものではありません。
  • 誓約書に代わる取扱いの可否、終端部の整備に関する扱い、一度提出された書面が将来の申請にどこまで引き継がれるかについては、いずれも行政の判断および運用によります。
  • 記事中の事例は、ご依頼者が特定されないよう、面積・距離等の数値を丸め、地域の記述を一般化しています。
  • 不動産の価格に関する記述は一般的な傾向の説明であり、評価額を示すものではありません。
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